シニョリン誕生

10 residue folded Peptide designed by segment statistics.
Honda, S. et al. Structure.12:1507-1518. Aug, 2004 [Pubmed]
世界最小のたんぱく質合成=生命起源解明や薬品開発に期待−産総研共同通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000710-jij-soci

ニュースを読んでもさっぱり分からないので、産総研のプレスリリースへ。

10個のアミノ酸からなる「最小のタンパク質」の創製に成功(産総研
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20040810/pr20040810.html

一般に蛋白質とは50アミノ酸以上のポリペプチド鎖のことを指しますが、実際には固有の立体構造を持っていることや、変性状態と再生状態の二つの状態を取りうること(協同性)などが重要な特徴となります(これらの特徴を持たない蛋白質も存在します)。
では、立体構造をとるには本当に50アミノ酸必要なのか、ということになりますが、ここで「自立要素仮説」なるものが出てきます。つまり、蛋白質が折りたたまれるときには、局所的に速やかに立体構造をとるコア(自立要素)がいくつか存在し、その周囲の配列は遅れて受動的に構造をとらされる、という考え方です。このような自立要素は様々な蛋白質に共通の部分構造である可能性が高いと考えられます。
そこで研究グループは蛋白質構造データベースより、独自のソフトウェアを用いて自立要素を抽出し、解析結果から安定な構造形成が期待される新規なアミノ酸配列を設計し、「シニョリン(chignolin)」と命名しました。これは10アミノ酸(GYDPETGTWG)からなるペプチドです。
ではシニョリンは蛋白質としての特徴を備えているのでしょうか。解析の結果、シニョリンは水溶液中で溶解することが確認され、構造解析により固有の立体構造を安定してとっていることが分かりました。また、温度を変化させることにより変性/再生の二状態性を取ることが示されました。よって、シニョリンは蛋白質としての特徴を備えていると考えられます。
この実験の重要な点は2点あります。一つは、ペプチド配列から立体構造をコンピューター予測する上で重要となる、コア構造を予測し抽出するアルゴリズムの開発に大きく寄与する点です。また、蛋白質の起源を考える上でも重要な発見です。現在の複雑な立体構造をもち多様な機能を持つ蛋白質も、その始まりは太古の昔に生命のスープと呼ばれた海洋で出現した、シニョリンのような短いペプチド鎖が起源であると考えられているので、その分子進化の過程を研究するうえで重要な知見です。
面白いなあと思ったのが、てっきりプロリンのようなペプチド鎖の角度を固定するアミノ酸が多く含まれているのでは、と思ったのですが、実際にはいろいろなアミノ酸が含まれています。
シニョリンのような10アミノ酸程度のコア単位は他にもいくつもあるのでしょう。これらのコア構造同士が特徴的な組み合わせを取ることで、さらに複雑な高次構造を取るのでしょう。この過程では完全な自立性は保たれず、シャペロンのような他者の関与が必要になりますが、これを計算予測するにはさらなるブレークスルーが必要です。
ところで、なんでシニョリンと名づけたのだろう?アイドルのニックネームみたいですね。原著読める方、教えてください。