Chronotherapy

Molecular-timetable methods for detection of body time and rhythm disorders from single-time-point genome-wide expression profiles.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Jul 23 [Pubmed]

生体内には「体内時計」と呼ばれるメカニズムが存在し、約24時間周期のcircadian rhythmを作り出しています。このリズムは細胞内のPer(Period)遺伝子、Tim(Timeless)遺伝子から転写・翻訳されたPer蛋白質、Tim蛋白質が複合体を形成して、自らの転写を抑制することで、増減のリズムを作り出しています。そしてこのリズムに制御されて、たくさんのClock-Regulated Geneの発現量が周期的に変化しています。
今回の論文は、マウス肝臓から経時的にmRNAを抽出して転写量の変化を調べて、体内時間のマーカーとして適したClock-Regulated Gene群を決定した、というお話。その結果、これまでは血中のメラトニン量を48時間調べなければ体内時間を測定できなかったのが、たくさんのClock-Regulated Gene群の発現量を相対的に比較することで、一度のサンプリングで体内時間を決定できる手法を確立した点が重要です。
では、何故そこまでして体内時計を決定しなければならないのでしょうか。実は体内周期に連動して、ホルモンの分泌はもちろんのこと、薬物の代謝なども大きく変動します。そのため、同じ薬剤でも投与する体内時間によって血中濃度半減期などの体内動態が大きく異なり、薬効や副作用の出方が変わってしまいます。これは、抗がん剤などの副作用の強い薬剤では大問題で、予後にも大きく影響します。そこで、体内時計に同期させた投与計画を組むことが重要であり、Chronotherapy(時間医療)という概念が出てきました。
ですから、将来的には体内時計をモニターしながら薬剤投与することを念頭に置いた研究のようです。ただ、現時点ではマウス肝臓から抽出したmRNAをAffymetrix社のGeneChipで測定しているようなので、まだまだ道は遠いといわざるを得ません。体内時計をモニターするのなら、ヒトの舌をスプーンで擦って採取した細胞か血中の白血球で測定できなければ、とても実用には耐えないでしょう。また、測定時間も数時間以内でないとリアルタイムにモニターするのは不可能です。現在のDNAチップに変わる画期的な技術が不可欠です。
これはオーダーメード医療についても同様です。患者の遺伝子多型を調べて最適な薬剤を最適な投与計画で投与するというのは素晴らしい話のように聞こえますが、そんな使いにくくて面倒な薬剤を使ってくれる病院がどれほどあるのか?しかも遺伝子多型を調べる検査が普及するには保険適用が不可欠ですが、莫大な医療費が発生することになります。例えばインフルエンザ検査は、今ではキットですぐに診断できるようになりましたが、大人気で品薄のようです。遺伝子検査も簡便で安価なキットの存在が不可欠です。

DNAチップで体内時刻の乱れ測定 山之内製薬研究所
http://www.asahi.com/science/update/0720/001.html
DNAチップを用いて体内時刻・リズム障害を正確に測定する方法を発明(山之内製薬
http://www.yamanouchi.com/jp/news/news2004/040720.html
薬は服用の時間によって、効果が違ってくるのでしょうか?
http://www.mainichi.co.jp/life/life/clinic/kusuri/20011006.html
時計遺伝子の探索
http://big.big.or.jp/~mastakeu/circadian2.html