実験技術について

http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/idomu/news/20040918ddm016070042000c.html
今回の「研究者の素顔」では、世界初のクローンマウスを誕生させた若山照彦さんが取り上げられています。

◆マウスの卵子は小さくてもろく、羊や牛より強い膜で覆われている。卵子に核を移植する針も通りにくく、クローンを作るのは大変難しいとされていた。難問をクリアした第一歩が通称「ピエゾ」と呼ばれる装置。電圧を加えると伸び縮みする「圧電素子」で、極細のガラス針をハンマーのようにたたく。針の先端にだけ力が集中するため、理論上、卵子を壊さず穴を開けることが可能だ。

そういえば学生時代に線虫を扱っていたときも、うちが使っていたインジェクターはガラス針が振動していました。もっとも圧電素子みたいな高級なものではなく、ガラス針をマニピュレーターで操作するときに、メカニカルに振動してしまう現象でした。「こうやって振動しちゃうところがこのインジェクターのいいところなんだ」という先生の言葉に、実験手法にこだわることの大切さを学びました。

◆専門外の研究室でのクローンマウス誕生に、世界中が驚いた。
なぜ成功したのか。最大の理由は、僕が大量の実験を素早く行う技術を身につけたからです。クローンの成功率は今のところ、どんな動物も数%程度。だから実験数を増やして成功の可能性を上げるしかない。
でも、それが難しい。ピエゾでの核移植は高度な技術で、それこそ朝から晩まで練習し、ピアニストのように体で操作のこつを覚えないとできない。逆に完全にマスターすれば、作業時間が劇的に短縮されるので、卵子が受けるダメージが減り、さらに成功率アップにつながります。

こういう高度な実験技術(それも人力)が要求される分野こそが、実はサイエンスのエッジなんだと思います。神経細胞や幹細胞の培養技術とかも、実験者によってアウトプットが大きく変わってくるので、実験手法のトランスファーがとても難しい。というのも実験をしている本人にも、どこがポイントであるか特定できないケースが多々あるからです。私はこういう分野を習うときは、ビデオに録画するのはもちろんのこと、隣にはりついて、両手の使い方から、機器の触り方、ピペッティングの回数とスピードまで、完璧にコピーするようにしています。そして体がそれを覚えるまでは朝から晩まで同じ操作を繰り返します。
実験技術の確立に夢中になっていたら、あっという間に何年もたってしまって、目的と手段を取り違えてしまうこともしばしばです。でも、こういう難しい実験を始めるときこそが、サイエンスをしていて一番楽しかったりもします。