諌早湾とアマミノクロウサギ

諌早湾干拓:工事差し止めの仮処分決定 漁業権侵害を認定
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/env/news/20040826k0000e040039000c.html

諌早湾干拓問題はテレビや新聞で読んだ程度の情報しかないのですが、当然の判決だし、遅すぎた、と感じました。なにせ、諌早湾干拓工事(総事業費約2460億円)は94%が既に終了しているのです。
ただ、進行中の公共事業を直接差し止める司法判断は初めてで、今回の判決が画期的なものである事は間違いありません。この判決を出したのは佐賀地裁の榎下義康裁判長なのですが、どんな人だろうと思い、調べてみました。
すると平成13年に「アマミノクロウサギ訴訟」という有名な判決を下した方だということが分かりました。この裁判は、鹿児島県奄美大島の2つのゴルフ場開発をめぐり、国の特別天然記念物アマミノクロウサギなどの希少動物の生存権が侵害されるとして、環境保護団体のメンバーらが動物を代弁して県の開発許可取り消しなどを求めた訴訟です。
この訴訟の原告が驚きです。

原告名が冠された動物
1.アマミノクロウサギ
2.オオトラツグミ
3.ルリカケス
4.アマミヤマシギ

なんと、動植物が原告となっているのです。もちろん、実際には弁護団が原告代理になりましたが、「自然」が原告として適格であるかどうかが争点となりました。
判決の結果は、動植物は現行法では原告不適格として敗訴としたのですが、一方で「自然の権利」について理解を示していて、現行法の問題点を指摘したために実質上の勝訴と認識されていて、実際に開発計画も中止になっています。
判決文では、動植物が原告として適格かどうかについて、環境基本法や欧米の自然保護思想の流れについても触れ、様々な角度から検証を試みているところに、裁判長の熱意が感じられます。そして、「自然の権利」の意義を認めつつも、現行法に従えば「原告不適格」せざるを得ないと苦渋の判断を下しています。
判決文の「第四 終わりに」は素晴らしい文章で全文を引用したいところですが、あまりに長いので抜粋に留めます。

 ところで、わが国の法制度は、権利や義務の主体を個人(自然人)と法人に限っており、原告らの主張する動植物ないし森林等の自然そのものは、それが如何に我々人類にとつて希少価値を有する貴重な存在であっても、それ自体、権利の客体となることはあつても権利の主体となることはないとするのが、これまでのわが国法体系の当然の大前提であつた(例えば、野生の動物は、民法二三九条の「無主の動産」に当たるとされ、所有の客体と解されている。)。

 しかしながら、個別の動産、不動産に対する近代所有権が、それらの総体としての自然そのものまでを支配し得るといえるのかどうか、あるいは、自然が人間のために存在するとの考え方をこのまま押し進めてよいのかどうかについては、深刻な環境破壊が進行している現今において、国民の英知を集めて改めて検討すべき重要な課題というべきである。
 原告らの提起した「自然の権利」という観念は、人(自然人)及び法人の個人的利益の救済を念頭に置いた従来の現行法の枠組みのままで今後もよいのかどうかという極めて困難で、かつ、避けては通れない問題を我々に提起したということができる。

現行法を最大限尊重しながらも、その限界を指摘し、さらに一歩踏み込もうとする。決して、「まず法ありき」ではない。だからこそ、人間である裁判官が判決を下す意味があるのだと思います。

アマミノクロウサギ訴訟」判決文
http://www.kamisama-tasukete.com/archive/amami.htm
「自然の権利」
http://homepage3.nifty.com/sizennokenri/