スーは見かけより若かった

Gigantism and comparative life-history parameters of tyrannosaurid dinosaurs
Erickson, G. M., et al. Nature 430, 772- 775. 2004

ティラノサウルスは史上最大の肉食動物であったと考えられていて、成体では5000kgに達したのではないかといわれています。その巨大な体格から速く走ることは難しく、狩猟ではなく「掃除」を行っていたのではないかとも考えられています。
今回の論文は、ティラノサウルスの年齢を骨から推定したというものですが、いくつか注目すべき点があります。一つは、これまでの年齢推定はいろいろな恐竜でバラバラに行われていたのに対し、今回は大きさが異なるTyrannosaurus rex(以下、T. rex)を7体用い、近縁種3種もそれぞれ3〜5体ずつ行った点です。これにより年齢と体の大きさの相関を調べることが出来ると同時に、近縁種と比べてT. rexが特別に巨大化した原因を考察することができます。
もう一つは、測定法の進歩です。通常は体重負荷のかかる大腿骨を用いて年齢推定を行うのですが、T. rexは大腿骨が中空状になっており「年輪」が分かりません。そこで研究グループは、体重負荷のかからない肋骨や腓骨を用いる測定法を開発しました。
これらの結果、7体のT. rexは2歳から28歳までに分布していました。また、体の大きさと年齢の相関をグラフにしたところS字曲線を示し、14歳から18歳の成長期に指数的に成長し、最大成長速度は1日当たり約2kgでした。他の近縁種も同じ頃に成長期を迎えますが、成長速度はとてもゆるやかでした。よって、T. rexが巨大化した理由は成熟までの期間が長くなったからではなく、成長期の成長速度が異常に加速したためであると考察できます。


ところで、今回の研究で登場する最高齢の28歳のT. rexThe Field Museum由来なのですが、実はこのT. rexは恐竜好きの方には有名人らしいです。このT. rexは「Sue(スー)」という名前で、これまで見つかったT. rexの化石のうち最大のものであり、保存率(90%以上)、保存状態とも最高で、2000年に全身骨格標本が初公開されました。これは本物の中の本物の全身骨格標本であり、学術的な見地からも極めて貴重なものなのだそうです。よくみかけるT. rexの全身骨格のイラストのモデルはSueだったのですね。
ちなみにSueの名前の由来は発見者の女性学者、スーザン・ヘンドリクソン(Susan Hendrickson)の名前から付けられたのですが、実は発掘後にアメリカ政府がスーの所有権を主張してFBIが突然化石を押収したために、発掘現場の先住民インディアンと争いになりました。結局は裁判の末に、サザビーズのオークションにかけられて、マクドナルドやウォルト・ディズニーからの資金提供を受けて、The Field Museumが約10億円で競り落としたのです。
Sueがあまりに大きく、T. rexが爬虫類であると仮定すると、その大きさに達するには100年かかると考えられるため、Sueの年齢は100歳前後であろうと推定されていました。Sueの性別は不明なのですが、もし雌だったら、70年も老けて見られていたのだから、さぞや怒っていたことでしょう。

Sue at the Field Museum
http://www.fieldmuseum.org/sue/default.htm
世界の恐竜博物館
http://www.yo.rim.or.jp/~winocean/godz.html