アゴと脳の関係

Myosin gene mutation correlates with anatomical changes in the human lineage
http://www.nature.com/cgi-taf/DynaPage.taf?file=/nature/journal/v428/n6981/abs/nature02358_fs.html

アゴ弱り脳膨らむ、遺伝子レベルで裏付け…米チーム(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20040325it01.htm

1本目。著者らのグループがヒトゲノム配列から新規のミオシンファミリー蛋白(MYH16)を同定したところ、塩基の欠失によるフレームシフトが生じていて、不安定な断片としてしか発現していませんでした。様々な人種のゲノムや他の哺乳類のホモログを調べてみたところ、全てのヒトは同様のフレームシフトを持っているのに対して、ヒト以外の哺乳類ではフレームシフトは存在せず、全長蛋白が発現していました。
そこでマカクザルのMYH16ホモログの発現を調べたところ、頭部のこめかみとあごをつなぐ筋肉にのみ発現していることが分かりました。この部位の筋肉は、ヒトではサルに比べて筋肉量が1/8程度しかないことが知られています。よって、ヒトではMYH16の変異が生じたことが、筋肉量が少なくなった原因なのではないかと考察しています。
さらに、いつ変異が生じたのかを分子時計の手法で概算したところ、約240万年前であることが分かりました。変異出現の時期が、アフリカにおいてヒトの祖先が出現した頃と一致することから、MYH16に変異が生じたことが頭部の筋肉の減少を引き起こし、脳の大型化を可能にしたと考えられます。

あごの退化が脳の大型化を招いたことは、すでに形態学的な研究から言われていることですが、その原因を遺伝子の変異に落とし込んだことが大きな発見です。ただ、論文の最後に、マウスもしくはマカクザルのMYH16のノックアウト動物を作製して、頭骨が大型化することを確認したデータがついているかな、と期待したのですが、残念ながらありませんでした。まあ、そんなに都合のいいことは起きないのでしょう。数多くの突然変異が許容された結果として、脳の大型化は達成されたのであり、今回の発見はその一つに過ぎないのだと思います。そういう意味では、後半の分子時計による概算は、かなりこじつけくさいです。
今回の論文は、進化論における突然変異説を支持する報告なのだと思います。
だけど最近の人って、どんどんあごが小さくなっている気がしませんか。
なんとなく「適応」というのは、より動的なメカニズムで個体レベルで起きていて、ずっと後になってゲノムに変異が生じてその変化が固定されるのではないか、なんて思ったりします。