浮気の原因は?

Enhanced partner preference in a promiscuous species by manipulating the expression of a single gene
Nature 429, 754- 757(2004)

前脳腹側にバソプレッシン受容体を発現させると、乱婚性のアメリカフタネズミが一夫一妻性になったという論文。
アメリカフタネズミが乱婚性(というか一夫多妻制か?)であるのに対して、近縁であるプレーリーフタネズミは一夫一妻性です。この2種の違いを調べた結果、腹側前脳におけるバソプレッシン受容体の発現がプレーリーで高いこと、ゲノム解析によりバソプレッシン受容体の配列には違いが無く、上流の発現調節領域に違いがあることが分かってきました。このことから仮説として、乱婚性のネズミの中から突然変異としてバソプレッシン受容体の発現が増加した個体が出現し、これらは互いに安定したつがいを形成しやすいために急速に変異が固定して、新しい種として分岐したのではないかと考えられています。
そこで研究グループは乱婚性のアメリカフタネズミの前脳腹側に、ウィルスを用いてバソプレッシン受容体の一つ(V1aR)を発現させ、行動解析を行いました。行動解析としては、partner preference testという手法を用いています。これは、まず被検動物(オス)を1匹のメスと同じケージに24時間入れておき、つがいを形成させます。その後にメスをもう1匹いれ、どちらの動物と体を寄せ合う時間が長いかを測定します。野生のアメリカフタネズミはパートナーとニューフェースの間で偏りがありませんでしたが、受容体を発現させたネズミはパートナーと寄り添っている時間が有意に高くなりました。
論文では、ヒトにおいてもフタネズミと同様にバソプレッシン受容体の上流領域にmicrosatellite DNAが存在していて、この領域の遺伝多型が自閉症と連鎖しているとする報告を紹介しており、ヒトV1aRの遺伝子多型が社会的行動と関係している可能性があるとしている。
「浮気性になる薬(アンタゴニスト)は売れないだろうから、アゴニストで良い夫にする薬かな?」とか、「ヒトは遺伝子レベルでは一夫一妻性と一夫多妻制のどちらなのか?」いう俗な疑問が浮かびました。
それはさておき、モデル動物の行動解析結果を安易にヒトの社会行動に当てはめるのはとても危険ですが、このような研究が自閉症や注意障害などの高次脳障害の治療法の糸口になってほしいものです。